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大阪地方裁判所 平成7年(行ウ)60号 判決

原告

中桐邦彦

外四七名

右訴訟代理人弁護士

丹羽雅雄

大川一夫

井上二郎

上原康夫

被告

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

久留島群一

外五名

主文

一  原告らの本件訴えのうち、政党交付金の交付の差止めを求める訴え及び政党交付金の交付を行うことが違憲であることの確認を求める訴えを、いずれも却下する。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、平成七年一月一日に公布施行された政党助成法(平成六年二月四日法律第五号)に基づいて、政党に対して政党交付金を交付してはならない。

二  被告が、政党助成法に基づいて、同法による政党交付金を政党に交付することは違憲であることを確認する。

三  被告は、原告ら各自に対し、それぞれ金二五〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、政党助成法は違憲であり、被告が同法に基づき政党に政党交付金を交付することは、原告らの有する人格権としての政治的自己決定権を侵害するものであると主張する原告らが、①民事訴訟としてその差止めを求めるとともに、②無名抗告訴訟としてその違憲の確認を求め、更に、③被告による政党交付金の交付により精神的損害を被ったとして、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案である。

一  政党助成法に基づく政党交付金の交付(争いのない事実)

1  政党助成法(平成七年一月一日公布施行)における政党の定義は、政治資金規正法(昭和二三年七月二九日法律第一九四号)三条一項に規定する政治団体のうち、当該政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を五人以上有するもの、あるいは、直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は直近において行われた参議院議員の通常選挙若しくは当該通常選挙の直近において行われた通常選挙における比例代表選出議員の選挙若しくはは選挙区選出議員の選挙における当該政治団体の得票総数が当該選挙における有効投票の総数の一〇〇分の二以上であり、かつ政党助成法二条一項一号の規定に該当する政治団体に所属していない衆議院議員又は参議院議員一名を有することとしており、政党交付金の交付対象となる政党を限定している。

2  政党に対する政党交付金の交付は、被告がその権限を有し、政党交付金は、議員数割及び得票数割によって交付される。

3  そして、政党助成法七条一項によれば、毎年分として各政党に対して交付すべき政党交付金の算定の基礎となる政党交付金の総額は、基準日における人口(基準日の直近において官報で公示された国勢調査の結果による確定数)に二五〇円を乗じて得た額を基準として予算で定めるとしている。なお、ここにいう国勢調査とは、政府が本邦に居住する者として政令で定める者について行う人口に関する全数調査(統計法四条)である。

4  各政党に対して交付される政党交付金は、自治省令で定めるところにより、七月にその年分として、政党に対して交付される政党交付金の額の二分の一に相当する額が交付される。

政党助成法三条一項に基づく、第一回の交付は、平成七年七月二〇日である。

二  争点

1  政党交付金の交付の差止めを求める訴え(請求の趣旨第一項)の適否

2  政党交付金の交付が違憲であることの確認を求める訴え(請求の趣旨第二項)の適否

3  原告主張に係る政治的自己決定権が国家賠償請求における法的保護対象性を有するか。

4  政党助成法の立法に関する行為及び同法に基づく政党交付金の交付の違法性

第三  争点に関する当事者の主張と当裁判所の判断

一  政党交付金の交付の差止めを求める訴え(請求の趣旨第一項)の適否について

1  原告らの主張

日本社会を構成する市民は、憲法一九条、二一条などの基本的人権に基づき、個人として政党を支持するか、支持するとすればいかなる政党を支持するか、自己の政治的意思をいかに表現し、いかに政党などの政治過程に反映させるかについて固有の権利を有している。このような人格権としての政治的自己決定権は、各人の人格に本質的なものであり、このような人格権は何人もみだりに侵害することは許されず、その侵害に対してはこれを排除する権能が認められなければならない。しかるに、政党交付金の交付は、被告が原告らの政治的意思(政治的自己決定権)を無視して特定の政党に対して金銭的助成を行うものであり、原告らの政治的自己決定権を侵害している。したがって、原告らは、民事訴訟として、その差止めを求めるものである。

なお、大阪国際空港事件判決(最高裁昭和五六年一二月一六日大法廷判決民集三五巻一〇号一三六九頁)の示した判断は、行政訴訟事件と民事訴訟事件の区別の基準が曖昧な中でその区別を要求するものであって、国民の裁判を受ける権利を奪うに等しいものであるから、右判決に従うべきではない。また、仮に従うとしても、右判決は本件とは事案を異にする。

2  被告の主張

政党交付金は、自治大臣が政党助成法三条所定の要件を備える各政党に対して交付すべき政党交付金の額を同法七条ないし九条に基づいて算定して、当該政党交付金の交付決定をし、右決定したところに従って交付される(政党助成法一〇条ないし一二条)。そうであれば、原告らの政党交付金交付の差止請求は、その実質において自治大臣の政党交付金の交付決定という公権力の行使に当たる行為の事前差止めを求めるものにほかならず、行政訴訟に属するものというべきであるから、民事上の請求としては不適法である(前掲大阪国際空港判決参照)

3  当裁判所の判断

(一) 政党助成法によれば、自治大臣は、同法七条ないし九条に基づいて各政党に交付すべき政党交付金の額を算定し、当該政党交付金の交付の決定をし(一〇条)、被告はこれを各政党に交付する(一一条)。そして自治大臣は、交付した政党交付金の総額及び各政党に交付した政党交付金の額を告示しなければならない(一三条)ものとされている。

ところで、原告らの本件訴えは、政党助成法に基づく政党への政党交付金の交付を一切差し止めることを求めるものであって、その実質において、自治大臣の行う政党交付金の交付決定を事前に阻止するものである。そうであれば、原告らの請求は、自治大臣の政党交付金の交付決定という行政処分の事前差止めを求めるものというべきであるから、行政訴訟に属するものといわざるを得ない。したがって、民事訴訟として提起された本件訴えは不適法である。

(二) なお、念のため、行政訴訟としての適法性について検討する。

本件差止請求を無名抗告訴訟と解した場合、このような訴えは、行政機関の第一次判断権を侵害するいわゆる義務付け訴訟に該当するから、①行政庁が当該行政処分をすべきこと又はすべきでないことについて法律上き束されていて、行政庁に自由裁量の余地が残されていないため、第一次判断権を留保する必要がなく、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であり、③他に適切な救済方法がない、という三要件が満たされる場合に例外的に認められるものであるが、本件では右①、②の要件を欠くことは明らかである。

次に、公法上の当事者訴訟(行政事件訴訟法四条後段)についてみるに、同訴訟は、公権力の行使に関する不服以外の公法上の法律関係に関する訴訟をいうものと解されるところ、本件差止請求は、自治大臣の交付決定という行政処分の事前差止めを求めるものであるから、公権力の行使に関する不服の訴訟に当たり、公法上の当事者訴訟としては不適法である。

結局、本件差止請求は、客観訴訟としての民衆訴訟(行政事件訴訟法五条)に当たると解するほかないが、このような訴訟を許容する規定は存在しない。

二  政党交付金の交付が違憲であることの確認を求める訴え(請求の趣旨第二項)の適否について

1  原告らの主張

憲法三二条は「何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。」と定めており、この権利は、憲法上の実体的基本権を守るための出訴、訴訟追行を保障した手続的基本権であり、いわば「基本権を確保するための基本権」と解されるものである。政治的自己決定権という原告らの実体的基本権が侵害されているという違憲・違法状態が現に存在すると考える場合、原告らが、裁判所に、その違憲の確認を求めて出訴することは、原告らに保障された基本権実現のための手続的基本権の行使にほかならない。したがって、憲法上の基本権(本件では政治的自己決定権)の侵害に対してはできる限りその救済のための裁判上の手段が与えなければならない憲法上の要請がある。しかも本件においては、以下のとおり、訴訟要件はいずれも満たされている。

(一) 法律上の争訟であること

裁判所法三条一項は、「裁判所は、日本国憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する」と規定しており、ここでいう法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって、法律の適用により最終的に解決できるものをいうと解されている。これを本件についてみると、原告らは、原告らが納付した税の中から政党交付金が政党、それも政党助成法によって選別された政党に交付されることによって原告らの政治的自己決定権が侵害されると主張している。そしてその侵害は、既に政党交付金の交付がなされたことによって現実のものとなっているばかりか、今後もその侵害が継続することが明らかに予想される。したがって、本件訴訟は、右具体的権利の存否に関するものであるとともに、既に裁判による解決になじむ段階に達しており、事件としての成熟性も十分であって争訟性の存在は明らかである。

(二) 確認の利益の存在

本件では、政治的自己決定権の侵害という違憲・違法状態が既に発生し、その状態が継続しているのであるから、原告らと被告との間においてその状態が違憲であることを確認する判決がなされることにより、被告はその違法状態を解消すべき責務を負い、その結果政党交付金は交付されなくなるから、本件争訟は解決される。したがって、本件確認の訴えは原告らに対する権利侵害の効果的救済方法という観点からみて有効、適切なものであるから、確認の利益の存在も明らかである。また、本件において、政党交付金の交付が違憲であることが判決で確認されると、関係行政庁である自治大臣は、同判決に拘束され、政党交付金を政党に交付してはならないとの不作為義務を負うことになる(行政事件訴訟法三八条一項、三三条一項)。このことからも、確認の利益の存在は明らかである。

(三) 原告適格を有すること

原告らは、本件において自己の憲法上の権利である政治的自己決定権が侵害されているとして、主観訴訟としてその侵害状態の違憲確認を求めているのであるから、原告適格を有することは明らかである。

(四) 被告適格を有すること

抗告訴訟は「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」とされているが(行政事件訴訟法三条一項)、右定義は法定の抗告訴訟の場合を前提にしているのであって、訴訟類型が極めて多様かつ多義的な無名抗告訴訟には右定義は妥当せず、したがって、本件においては、国が被告適格を有するのである。

2  被告の主張

(一) 法律上の争訟に当たらないこと

本件訴えは、特定政党に対する具体的な政党交付金の交付を問題にすることなく、法の定める要件を充足する政党に対する政党交付金の交付がすべて違憲であることを確認するというものであり、具体的紛争を離れて、抽象的、一般的に法律の憲法適合性についての判断を求めるものである。しかも、原告が主張する政治的自己決定権なるものは、その内容が不明確で具体的な権利とはいい難い上、租税の賦課徴収と法令に基づく国費の支出との間に直接的、具体的関連性はないから、本件訴えは、結局、国民一般の資格に基づき法の憲法適合性の有無を争う民衆訴訟に当たるというべきところ、本件のような訴えを認める法律上の規定は存在しない。

以上からすれば、本件訴えは、法律上の争訟とはいえず、不適法である。

(二) 義務付け訴訟ないし義務確認訴訟の要件の欠如

原告ら主張のとおり、本件訴えを無名抗告訴訟の一種と解するとしても、その内容からして義務付け訴訟ないし義務確認訴訟であるところ、このような訴えは、行政機関の第一次的判断権を侵害するものであるから、原則として不適法であり、①行政庁が当該行政処分をなすべきこと又はなすべからざることについて法律上き束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために、第一次的判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められ、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であり、③他に適切な救済方法がないという要件が満たされる場合に例外的に認められるものと解されている。これを本件訴えについてみると、例外的に認められるための要件のうち少なくとも①、②の要件を欠いているから、不適法である。

(三) 原告適格を欠くこと

抗告訴訟を提起し得るのは、公権力の行使により自己の法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者に限られる。ところで政党助成法には、原告らの主張する政治的自己決定権を個別的利益として保護していると認められる規定は存在しない。したがって、原告らは本件訴えにつき原告適格を欠く。

(四) 被告適格を欠くこと

無名抗告訴訟は、処分をした行政庁を被告として提起しなければならないところ、被告は行政庁ではないから、本件訴えは不適法である。

3  当裁判所の判断

裁判所に与えられている司法権(憲法七六条)は、法律上の争訟について裁判を行う作用をいい(裁判所法三条一項)、ここで法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争を意味するのであって、裁判所は、民衆訴訟等法律に定められた例外を除いては、具体的事件を離れて抽象的に被告の行った行為の違憲あるいは違法性を判断する権限を有するものではない。裁判所に与えられている違憲立法審査権もこの範囲で行使し得るにすぎないのである。

ところで、本件訴えは、原告らの主張する政治的自己決定権の存在を前提にするものであるところ、ここでいう政治的自己決定権なるものは、その主張によれば、思想及び良心の自由(憲法一九条)、集会・結社の自由(憲法二一条)に基づくものであって、政党を支持するか、支持するとすればいかなる政党を支持するか、自己の政治的意思をいかに表現し、いかに政治過程に反映させるかを内容とするものであるというのである。そうであれば、政治的自己決定権なるものは、すべての個人が同じように享有するものということになり、このような内容を有する権利が政党交付金の交付により侵害されたことを前提にその違憲の確認を求める本件訴えは、結局、基本的人権を享有する個人としての地位に基づき、抽象的に政党交付金の交付の憲法適合性を争うことを内容としていることに帰着する。そうであれば、本件訴えに法律上の争訟性があるとは認められない。

原告らは、政党交付金の交付によって、原告ら各個人がそれぞれの人生を通じて培ってきた真摯な政治的信念の具体的自由権が侵害されたから、本件紛争は具体的権利義務に関するものといえると主張するが、原告らに右のような一般的な権利以上の固有の権利を認めるべき根拠は存しないから、原告らの右主張は採用することができない。

したがって、本件訴えは不適法として却下を免れない。

三  原告らの主張に係る政治的自己決定権が国家賠償請求における法的保護対象性を有するか。

1  原告らの主張

(一) 原告らは、政党交付金の交付によって、原告ら各個人がそれぞれの人生を通じて培ってきた真摯な政治的信念の具体的自由権(政治的自己決定権)を侵害されたのであって、抽象的に各個人が享有する自由権を侵害されたにすぎないものではない。

そして、政党交付金の交付は、それ自体、原告らの政治的自己決定権を具体的に侵害するものである。すなわち、国家が、政党に対して国費をもって助成することは、特定の政党を選び出して援助することになり、国家の思想・文化的価値に対する中立性に真っ向から反することになる。そして、中立性が害されると、国民個々人が直接的な作為又は不作為を強いられなくとも、政治的意思の形成という側面の国民の政治的自己決定権は容易に侵害されるのである。なぜなら、政治的意思形成という側面の自己決定権は自己の精神作用にかかわる極めてセンシティブな人権であり、それゆえにこそ間接的派生的な侵害によっても直接的侵害と同様のダメージを受けるからである。

(二) 原告らの中には、選挙権・被選挙権という政治参加の基本的な機会さえも保障されていない定住外国人がいる。これらの定住外国人にとって、自ら納めた税金が特定の政党の政治活動のために使われるということは、彼らの個人の尊厳を傷つけ、その品位を辱めることになり、具体的に個人の人権に対する侵害を与えている。

2  被告の主張

(一) 原告らが主張する政治的自己決定権なるものは、その内容に何ら具体性がなく、要は憲法一九条ないし二一条に由来する政治的意見表明の自由ないし政党支持の自由をいうものであって、このような権利は、広く一般国民が憲法によって保護されている自由権にすぎない。そして、政治的自己決定権が侵害されたといっても、それは原告らの思想、政治的信条等と相反する内容を有する法が制定され、法の執行として政党交付金の交付が実施されたことによって、個人的に不快感、焦燥感、憤り等の感情を抱かせたことを意味するにすぎず、このような主観的かつ抽象的な意識、感情は、国家賠償法上保護の対象となるものではない。

また、政党交付金の交付それ自体は、原告らに直接何らかの作為又は不作為を強いるものではなく、政党交付金の交付が原告らが自己の政治信条に基づいて政党を支持する意思の形成、維持に具体的かつ直接に何らかの影響を与えるものでもない。しかも、原告らを含めた国民から賦課徴収された税金をどのように使用するかは、財政民主主義の精神に則り、主権者である国民の代表者を通じて国会における予算審議を経た後に決定されるものであるから、現行法制下においては、租税の賦課徴収と法令に基づく国費の支出との間に直接的、具体的な関連性はなく、この点でも政党交付金の交付が原告らの政治的自己決定権なるものを侵害すると解する余地はない。

(二) また、原告ら主張の定住外国人についても、これらの原告らが、自己の思想、政治信条に反する法の制定及び法の執行としての政党交付金の交付によって不快感、焦燥感、憤り等の感情を抱いたことを意味するにすぎず、このような感情が国家賠償法上保護の対象となるものではない。

3  当裁判所の判断

前記二3でみたように、原告らの主張する政治的自己決定権なるものは、思想及び良心の自由(憲法一九条)、集会・結社の自由(憲法二一条)を基礎とし、その内容は、政党を支持するか、支持するとすればいかなる政党を支持するか、自己の政治的意思をいかに表現し、いかに政治過程に反映させるかというのであって、それは思想及び良心の自由(憲法一九条)、集会・結社の自由(憲法二一条)の一側面であるということができ、このような自由権は、政治的自己決定権というかどうかは別として、すべての個人が享有するものであり、原告らに固有の権利ということはできない。

ところで、原告らは、政党交付金の交付により、右のような意味で個人が享有する権利を具体的に侵害されたと主張する。しかし、政党交付金の交付が、原告らを含めた個人に直接何らかの作為又は不作為を強いるものではなく、また、自己の政治信条に基づいて政党を支持する意思の形成、維持に具体的かつ直接に何らかの影響を与えるものでもないことはいうまでもない。そうすると、原告らは、要するに自己の思想ないし考えに適合しない政党助成法の制定とこれに従ってなされた被告による政党交付金の執行により、危惧、不快感ないし憤りといった内心における感情を害されたという精神的苦痛を被ったというにとどまるものである。しかも、右のような精神的苦痛は、間接民主制に基づく法律の制定が多数決原理を基礎としていることから不可避的に伴うものである。したがって、このような精神的苦痛が生じたとしても、これをもって国家賠償において保護されるべき利益ということはできない。そして、原告の中には定住外国人が含まれており、選挙権及び被選挙権を有していないとしても、その精神的苦痛をもって国家賠償において保護されるべき対象とならないことは、右と同様である。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の国家賠償法に基づく請求は理由がない。

(裁判長裁判官鳥越健治 裁判官遠山廣直 裁判官山本正道)

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